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暮らしお役立ち情報 No.4

[サービスコード/P00122-00008]
2-1.がん検診について
暮らしお役立ち情報 No.4

ここでは、がん検診の目的や効果、メリット・デメリットについて説明します。(公開日:2018年9月20日)

1.はじめに

現在、わが国のがんによる死亡者数は年間30万人を超え、死亡原因の第1位を占めるようになりました。しかし診断と治療の進歩により、一部のがんでは早期発見、そして早期治療が可能となってきました。がん検診はこうした医療技術に基づき、がんの死亡率を減少させることができる確実な方法です。
がん検診を正しく受けるためには、「がん検診を正しく知る」ことが必要です。正しい知識を持ってがん検診を受診しましょう。

2.がん検診の目的

がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことでがんによる死亡を減少させることです。単に多くのがんを見つけることが、がん検診の目的ではありません。

1)検診の対象は症状のない人

無症状のうちに「がん」を早期に発見し治療することが大切です。無症状の人には進行がんが少なく、早期のうちにがんを発見することができます。そのがんを治療することにより、がんによる死亡のリスクを軽減することができます。

 
2)検診と健診

検診は特定の病気を発見し、早期に治療を行うことが目的です。具体的には、がん検診や糖尿病検診等があります。
健診は健康かどうかを確認し、健康上の問題がなく、社会生活が正常に行えるかどうかを判断します。学校健診や就職時の健診がこれに当たります。


3)がん検診の基本条件

最終的な目標であるがんによる死亡を減少させるためには、早期発見できる方法だけではなく、さまざまな条件が必要です。

①がんになる人が多く、また死亡の重大な原因であること

がん検診の対象は健康な人です。このため、がんが見つかる確率は必ずしも高いとはいえません。検診を行うのに向いているがんは、そのがんになる人が多いこと、またそのがんによる死亡が多いものです。こうしたがんは、がん検診により多くの人々の命を助けることができます。
具体的には、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸(しきゅうけい)がん等です。

②がん検診を行うことで、そのがんによる死亡が確実に減少すること

がん検診の目的は、早期発見によりそのがんで死亡する可能性を減少させることです。ただし、多くのがんを見つけるだけでは、その目的を達成することはできません。それは、がん検診により発見されるがんの中には、生命予後に影響を与えない、すなわち死亡原因にはならないものが含まれている可能性があるからです。がん検診により死亡を確実に減少させることができるかどうかは、科学的な方法に基づく検証が必要です。そうした科学的根拠に基づくことで、がん検診本来の目的が達成できます。

③がん検診を行う検査方法があること

多くの人を対象として行うことのできる検査方法が必要です。特定の施設や専門家でないと検査ができないなど、実施が困難な方法はがん検診には不向きです。検査のための医療機器や、検査を行う医師や検査技師等が十分確保できることも基本条件となります。

④検査が安全であること

どのような検査にも偶発症(医療行為に伴って予期せず起こる合併症)の可能性はありますが、その頻度は検査方法によって異なります。健康な人を対象に行う検査には、偶発症の可能性ができるだけ低いことが望まれます。

⑤検査の精度がある程度高いこと

がん検診で見つける目標となるのは、放置すると死亡に至る可能性の高いがんです。小さながんの中にも進行して死亡に至るものがありますが、生命に影響のないがんも多く含まれています。がん検診の目的は、小さながんを見つけることではありません。必ずしも非常に精度の高い検査である必要はなく、死亡に至る可能性の高いがんを、できるだけ正確に見つけることができる検査が、がん検診の方法として適しています。

⑥発見されたがんについて治療法があること

発見されたがんに対する治療法が確立している必要があります。効果的な治療法が確立していることより、救命が可能になります。

⑦総合的にみて、検診を受けるメリットがデメリットを上回ること

①〜⑥までの条件を備え、検診を受けるメリットが明らかに大きいと判断できれば、がん検診として適切といえます。このほかにも市町村で行う検診などについては、経済性についても検討される場合があります。

3.がん検診のメリット、デメリット

がん検診にはデメリットが付きものですが、メリットは検診によってはないこともあり、科学的に証明できてはじめてメリットがあるかどうかわかります。メリットがある場合にも、両者を比べてメリットのほうが大きいと判断できることが重要です。
 
1)がん検診のメリット

がん検診の目的は、早期発見により、そのがんで死亡する可能性を減少させることです。ただし、多くのがんを早期に見つけるだけでは、その目的を達成することはできません。それは、がん検診により発見されるがんの中には生命予後に影響を与えない、すなわち死亡原因にはならないものが含まれている可能性があるからです。死亡を確実に減少させることができるかどうかは、科学的な方法に基づく検証が必要です(頁内「5.がん検診の効果とは」を参照してください)。そうした科学的根拠のある検診ではじめてがん検診本来の目的が達成できます。
効果があると判断されたがん検診の最大のメリットは、早期発見、早期治療による救命の効果です。症状があって外来を受診した場合には、がん検診と比べ、進行したがんが多く見つかります。一方、がん検診は症状のない健康な人を対象にしていることから、早期がんが多く発見されます。早期がんはそのほとんどが治り、しかも軽い治療ですみます。一方、進行がんは、臓器によって程度が違いますが、治すことができない場合が多くなります。
がん検診によってがんが早期に見つかるばかりではなく、いわゆる前がん病変が発見されることがあります。子宮頸がんにおける異型上皮、大腸がんにおける大腸腺腫(ポリープ)等がその例です。このような前がん病変は、それを治療することでがんになることを防ぐことができます。実際、検診によりがんを減らせることが、これら2つのがん検診ではわかっています。
がん検診を受けて「異常なし」の判定が下ったとしましょう。多くの人々は「がんがない」ことで安心します。これもがん検診のメリットということができます。
 
2)がん検診のデメリット

がん検診のデメリットとは、検診の欠点や検診を受けることによる不利益のことです。この項を設けた目的は、がん検診を受ける際には、このようなデメリットがあるということも十分に理解していただきたいからです。それでは具体的にデメリットを検証していきましょう。

①がん検診でがんが100%見つかるわけではないこと

どのように優れた検査でも、100%の精度ではありません。がんが発生した時点から、一定の大きさになるまで検査で発見することはできません。その可能性は、がんの種類や検査の精度によって異なります。さらに、がんそのものが見つけにくい形であったり、見つけにくい場所に出たりする場合があります。このため、ある程度の見逃しは、どのような検診であっても起こってしまいます。

②結果的に不必要な治療や検査を招く可能性があること

検診では、本来生命状態に影響しない、微小でその後も進行がんにはならないがんを見つける場合があります。これを「過剰診断」といいます。今のところ、このようながんと普通のがんを区別することはできません。そこで早期に治療することを重点に考えた場合、このようながんにも手術などの治療を行わざるをえないことになります。
次に、がん検診によってがんの疑いがあると判定され、精密検査を行ってもがんがない場合も多くあります。これを検診での「偽陽性」といいます。この「偽陽性」はある程度までは避けようがなく、精密検査を行ってはじめてそれとわかるもので、精密検査をしないわけにはいきません。
早期発見、早期治療のためにはある程度やむをえないことですが、結果的にみれば不必要な治療や検査が行われることがあります。

③検査に伴う偶発症の問題

偶発症の具体例としては、胃の内視鏡検査で出血や穿孔(せんこう:胃壁に穴を開けること)を起こすものがあります。極めてまれですが、死亡に至ることがあります。専門の学会の報告では、胃の検査では約1万件に1件(0.01%)、大腸の検査は約1,500件に1件(0.07%)となっています。またX線検査、CT検査等による放射線被曝によりがんの誘発や遺伝的影響があることも、極めて低い確率ではありますが、否定することはできません。例示した内視鏡検査では、検査を行う医師の技術向上や機器の改善が進められ、また、放射線被曝についても機器の開発、改善によってその影響を最小限に抑えられるようになっています。ただ、極めて低い可能性ですが、こうした偶発症が起こる可能性も理解しておいてください。

④受診者の心理的影響

がん検診を受ける場合、多かれ少なかれ心理的な負担があります。検診によって「がんがありそう(異常あり)」とされた場合、精密検査を受診しなくてはなりません。その場合、悪性か良性か、検査の結果が出るまでの間の心理的な負担は重いものです。しかし、がん検診のかけがえのない利点は、がんの早期発見と早期治療による救命ができることです。このメリットを生かすためには、医師や看護師からの十分な説明を受け、がん検診のメリットだけではなく、デメリットついても併せて知っておくことが必要です。

4.がん検診の流れ

がん検診は、一見健康な人に対して、「がんがありそう(異常あり)」、「がんがなさそう(異常なし)」ということを判定し、「ありそう」とされる人を精密検査で診断し、救命できる「がん」を発見することを目的としています。
がん検診は、「がんがある」、「がんがない」ということが判明するまでのすべての過程を指します。図1に示すように、がん検診を受けて「異常がない」場合は、定期的に次回の検診を受診することになりますが、「精密検査が必要」と判断された場合には、精密検査を受診することが必要です。「精密検査」を受診して、「異常なし、または良性の病変」であったときは、次回の検診へ。「がん」と判定された場合は、治療へ進むことががん検診の流れです。途中で精密検査や治療を受けない場合は、がん検診の効果はなくなってしまいます。

図1 がん検診の流れ

5.がん検診の効果とは?

近年、がん検診の効果を科学的な方法で評価したうえで、「効果がある」とわかってから公共の政策として実施するのが、国際標準となってきました。実は、がん検診にも効果があるものとないものがあるのです。
わが国でも、がん検診の効果の判定は行われています。この中で、科学的な方法によって、がん死亡率の減少が認められ、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」に定められた検診は、表1に示す通りです。

表1 「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で定められたがん検診の内容

1)「発見率」だけではがん検診の評価はできない

検診を受けた人の中で、特定のがんが発見された割合を「発見率」といいますが、発見率だけでは、検診を正確に評価することはできません。なぜなら発見率は、対象となる集団の特徴によって大きく異なるからです。子宮頸がんや乳がんなど、比較的40歳代に多いものもありますが、多くのがんは年齢が高くなるほど増加します。
同じがん検診を行っても、60歳以上の受診者が多い市町村の検診では発見率が高く、30~40歳代が中心の職場の検診では発見率が低くなります。このように発見率の差は、がん検診の精度や医師の診断能力の差よりも、対象グループの年齢や性別に影響を受けることが多いのです。つまり、発見率が高くても、必ずしも診断精度の高い検診であるとは限らないのです。

 

2)がん検診を評価するRCT(無作為化比較対照試験)の考え方

効果のあるがん検診かどうかを決めるには、いかに多くのがんを発見するか(発見率)ではなく、がんを発見したことによりそのがんによる死亡率を減少させる効果があるかどうかということが、判定の基準となります。それでは、がん検診が対象となるがんの死亡率を減少させる効果があるということを、どのようにして証明するのでしょうか。
がん検診の効果の最も信頼性が高い研究方法として認められているのは、無作為化比較対照試験(Randomized Controlled Trial : RCT)です。
図2に示すように、RCTは、検診の対象となるがんの死亡率が検診を行わないグループ(対照グループ)に比べて検診を行うグループ(検診グループ)で低下するかどうかを検証する試験です。研究に参加する人を類似の特性を持つ2つの集団にするために、くじ引きなどで振り分けます。そのようにしていわば双子のように似た2つの集団をつくり、そのうえで検診グループで、本当にがんによる死亡が減少するかどうかを長期にわたって追跡し検証するものです。
がん検診の効果を判定するための研究方法としては、ここに掲げたRCTのほか、コホート研究や症例対照研究などの科学的検証方法があります。これらの複数の研究を総合し、本当に効果があるがん検診は何であるかが検討されます。しかし、医療施設からの発見率や生存率などの報告、そして専門家の意見などは、がん検診の効果を判定するための根拠としては信頼性の低いものです。

図2 無作為化比較対照試験(Randomized Controlled Trial : RCT)の仕組み

6.参考文献

1.厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」
2.国立がん研究センターがん予防・検診研究センター;有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版
3.平成16年度厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班;有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン
4.平成18年度厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班;有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン
5.平成20年度厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班 平成21年度厚生労働省がん研究助成金「「がん検診の評価とあり方に関する研究」班;有効性評価に基づく子宮頸がんガイドライン
6.国立がん研究センターがん予防・検診研究センター;有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版

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編集・脚本 チームコンシェルジュ

<掲載内容の情報源・根拠>
・国立がん研究センター
 がん情報サービス