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暮らしお役立ち情報 No.17

[サービスコード/P00140-00002]
1.がんの発生と進行の仕組みを知る
暮らしお役立ち情報 No.17

がんがどのように発生し、広がるかについて知っておくと、治療の目的や進め方などが、よりわかりやすくなります。(公開日:2018年12月4日)

がんにかかわる遺伝子は生命の誕生に不可欠

人間の体は、たくさんの細胞からできています。1つの受精卵から細胞が分裂を繰り返すことに始まり、1つの生命として全体の調和を保ちながら、体を構成するいろいろな組織、さまざまな機能を担う臓器がつくられていきます(分化といいます)。それぞれの細胞には分裂や分化、増殖にかかわる遺伝子があり、生物としてのヒトが成長したり、生命を維持するために不可欠な情報が含まれています。

正常な細胞は、体や周囲の状態に応じてふえたり、ふえることをやめたりします。一方で、ふえた細胞が脱落することがあります。例えば、胎児のある時期に、いったん指の間に水かきのような部分ができますが、しばらくすると脱落します。皮膚や腸管の細胞は、古くなった表面の細胞から脱落して、徐々に新しい細胞に入れ替わるように調節されています。この一連の仕組みは、遺伝子によって制御されています。

細胞がふえたり、ふえるのをやめたり、成熟して分化する、脱落するという仕組みは、遺伝子に変化が起こることによって調節できなくなります。その結果、異常な細胞がふえ続けたり、脱落しなくなったりします。

調節の仕組みの異常からがんができるまで

私たちの体内には、このような変化した遺伝子を監視する仕組みがあり、遺伝子を修復したり、異常な細胞がふえることを抑えたり、取り除いたりすることで、正常な状態を保ちます。ところが、異常な細胞がこの監視の網の目をすり抜けてしまうことがあります。無制限にふえる、ほかの場所に転移するなどの性質を獲得してしまった細胞が何年もかけて数をふやし、体に害を与える悪性腫瘍を形成します。これががんです(図1)。

悪性腫瘍(あくせいしゅよう)
体を構成する細胞に由来し、進行性にふえたものを腫瘍といいます。このうち、異常な細胞が周りに広がったり、別の臓器へ移ったりして、臓器や生命に重大な影響を与えるものが悪性腫瘍です。体や臓器の表面などを構成する細胞(上皮細胞)からできる「癌(がん)」と、骨や筋肉などを構成する細胞からできる「肉腫」に分類されます。

このように、がんの発生の仕組みは、生命の誕生と成長、維持のための仕組みと密接にかかわっています。そのため、禁煙や適度な運動、野菜をとるように心がける、などで「がんになりにくいようにする」生活を送ることはある程度できても、「がんにならないようにする」ことはできません。

一方で、がんの発生の仕組みやがんの性質を知ることで、今度は逆にその仕組みを利用して、より効果的な治療を行うことができるようになります。


 図1:がんの発生と進行の仕組み

*浸潤:がん細胞が周囲の組織や臓器にしみ出るように広がること。

がんの発生と進行の仕組みを治療に利用する

手術

がんを外科的に切除します。一方、切除する範囲を小さくすることで、治療後の後遺症を最小限にします。

[例]
乳がんでは、乳房の一部を残す場合と、乳房全体を切除する場合で治療効果に差がないことがわかっています。がんの広がる仕組みがわかることによって、切除の範囲を小さくできるようになり、治療後の後遺症を最小限にするなど、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を重視した治療が行われるようになってきています。

QOL(きゅーおーえる)
Quality of Lifeのことで、「生活の質」と訳すこともあります。治療や療養生活を送る患者さんの肉体的、精神的、社会的、経済的、すべてを含めた生活の質を意味します。病気による症状や治療の副作用などによって、患者さんは治療前と同じようには生活できなくなることがあります。QOLは、このような変化の中で患者さんが自分らしく納得のいく生活の質の維持を目指すという考え方です。治療法を選ぶときには、治療効果だけでなくQOLを保てるかどうかを考慮していくことも大切です。
薬物療法(抗がん剤治療)

■化学療法
がん細胞がふえる仕組みを妨げる薬を使うことによって、がんを破壊、縮小させます。

[例]
肺がんの1つである小細胞がんでは、遺伝子の合成にかかわるタンパク質の働きを抑える薬と、遺伝子と結合して細胞の分裂を抑える薬を組み合わせることによって、治療を行います。

■ホルモン療法(内分泌療法)
がんの増殖は性ホルモンの影響を受けることがあります。前立腺がんでは男性ホルモン、乳がんや子宮体がんでは女性ホルモンがかかわっており、これらのホルモンの作用を抑えることによって、治療を行います。

■分子標的治療
がん細胞で傷ついた遺伝子からつくられる、がん細胞の異常な性質の原因となっているタンパク質を攻撃する物質や抗体(分子標的薬)を、体の外から薬として投与することによって治療します。

■分化誘導療法
未熟ながん細胞を成熟させて性質を変えることで、がんを治療します。

[例]
急性骨髄性白血病の一部では、レチノイン酸という薬を使うことで、未熟でふえやすい白血病細胞の分化を誘導して、正常な白血球と同じ経過をたどってふえないようにする治療を行います。

放射線治療

遺伝子を傷つけて分裂しないようにしたり、細胞が自ら脱落する現象を増強します。

【例】
頭頸部(首やのどなど)のがんでは、放射線を当てる治療を手術や化学療法と組み合わせて、あるいは単独で行うことによって、発声や嚥下(のみ込むこと)への影響を最小限にしながら治療を行うことができる場合があります。

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編集・脚本 チームコンシェルジュ

<掲載内容の情報源・根拠>
・国立がん研究センター がん対策情報サービス
 「がんになったら手にとるガイド」