健康・医療
3.がんの病期のことを知る

検査により診断された、がんの状態を客観的に示す「病期(ステージ)」に基づいて、最も適した治療の進め方が検討されていきます。(公開日:2018年12月6日)

がんの進行の程度を知るための指標が「病期」です

がんの治療について検討するときには、がんの広がりや進行の程度、症状など、病気の現状を踏まえた上で、最も治療効果が高く、体への負担の少ない治療を選択していきます。がんの状態を知るための指標が「病期」です。病期は、がんが体の一部分にとどまっているか、広い範囲に広がっているかの「目安」になります。

病期を知ることと治療を考えることは密接な関係があります

病期を知ることで、これからの治療の目安についておおまかに予測することができます。例として、以下のことがあげられます。

■今後の見通しを立てる
もしこのまま治療をしない場合、どのように進行していくのか。予後はどうか。

予後(よご)
病気や治療などの医学的な経過についての見通しのことです。「予後がよい」といえば、「これから病気がよくなる可能性が高い」、「予後が悪い」といえば、「これから病気が悪くなる可能性が高い」ということになります。

 

■治療の実績を知る
がんの種類や進行の度合いが同じ患者さんで、これまでどのような治療が行われているか。その効果と予後はどうか。

■治療の効果を予測する
ある治療を予定しているが、自分と同じ状態の患者さんでの治療効果はどうか、どんな副作用があるか。

■治療法の選択に役立てる
複数の治療法を検討しているが、どれが自分の今の状態に対して有効な治療か。

■病状の比較をする
ほかの人のがんの治療法やその後の経過について聞く機会があったが、それが自分に当てはまるかどうか。

病気の治療方針を考えるとき、これまで、同じがんの種類や状態の患者さんに、どのような治療が行われ、その効果はどうだったか、ということを知っておき、自分にとってその結果が当てはまるかどうか、同じように行うことが可能かどうかを検討します。このように病期を知って治療の目安を得ることと、実際に患者さんに対して治療を行っていくことは、密接な関係があります。

病期を決める要素はがんの種類によって異なります

がんの特徴を示すものとして、場所や大きさ、広がり、病理検査・病理診断でわかるがん細胞やがんの組織の性質など、病気の経過に強い影響を及ぼす客観的な指標を組み合わせることによって、がんの病期が決められています。こうした病期はがんの種類によって異なるだけでなく、同じがんでもさらに細かく分類されたり、治療の前後で判定方法が異なっていたり、国によって違う方法を採用していたりするなど、治療経過や目的によって変わることがあります。

病理検査・病理診断(びょうりけんさ・びょうりしんだん)
病変の一部(組織)を薄く切り出したり、体の一部分から採った細胞を、顕微鏡で観察することにより、悪性腫瘍かどうか、異型度はどうかなど、組織や細胞の性質を詳しく調べる検査のことです。病理検査に基づいてなされる診断を病理診断といい、専門の病理医によってなされます。

病期分類の例:TNM分類では0~IV期の5段階に分類します

病期分類の1例としては、国際対がん連合の「TNM分類」があります。病期は以下の3つの要素を組み合わせて決められます。

1.がんがどのくらいの大きさになっているか(T因子)。
2.周辺のリンパ節に転移しているか(N因子)。
3.別の臓器への転移はあるか(M因子)。

これによって病期を大きく0~IV期の5つに分類します。0期に近いほどがんが小さくとどまっている状態、IV期に近いほどがんが広がっている状態(進行がん)です。

がんの種類によっては、TNM分類を基本にさらに細かく分類したり、患者さんの体調や年齢など、ほかの因子を追加したりすることもあります。また、がん細胞の遺伝子の特性や腫瘍マーカーによる分類を行うこともあります。必ずしも細かい内容や項目について知っておく必要はありませんが、検査の目的や結果が今後の治療の見通しとどう関連しているか、ある程度知っておくと、担当医の説明を聞くときの参考になります。

病期の判定から治療法決定までの流れ

病期や患者さんの状態などをもとに治療方針が検討されます。最近では、ある特定の病状の患者さんについて、適切な診療上の判断を行うことを助ける目的で、系統的につくられた診療ガイドラインを参考にして、治療方針が検討されるようになってきています。診療ガイドラインには、ある状態の一般的な患者さんに対して、推奨される治療との対応をわかりやすく示したものを、「アルゴリズム」「フローチャート(流れ図)」として示しているものもあります。

最終的な治療方針は、さらに患者さんの全身状態や年齢や希望など、さまざまなことを考慮して、担当医と十分相談しながら決めていきます。

診療ガイドライン(しんりょうがいどらいん)
診療ガイドラインは、系統的に収集して整理した診療に関する情報や検討結果を、参照しやすい形にまとめたものです。ある状態の一般的な患者さんを想定して、適切に診療上の意志決定を行えるように支援することを目的としています。

病期によって治療法が大きく変わることがあります

がんの治療法は、がんがある場所に対して治療を行う手術や放射線治療などの「局所療法」と、全身に広がったがんに対して治療を行う薬物療法(抗がん剤治療)などの「全身療法」に分けられます。局所療法は治療を行った場所については、がんを取り除くことができるなど、高い治療効果を発揮しますが、治療の範囲の外にがんがある場合は、その部分は引き続き体にとどまることになります。一方、全身療法は点滴による抗がん剤などで、体の隅々までがんに対する治療を行うことができますが、一部のがんを除き、がんを根絶するまでの高い治療効果を得ることは困難です。

局所療法(きょくしょりょうほう)
がん(腫瘍)のできている部位とその周辺に対して行われる治療のことです。外科療法(手術治療)、放射線治療などがあります。これに対して病変の部分だけではなく、抗がん剤による薬物療法など、全身に対して行われる治療を全身療法といいます。
抗がん剤(こうがんざい)
がんの治療に用いられる薬剤のことです。がん細胞の増殖を妨げたり、がん細胞そのものを破壊する作用を持った薬です。作用の仕方によって、さまざまな種類の薬があり、単独、あるいは、数種類を組み合わせて用いられます。錠剤やカプセル剤といった経口薬(のみ薬)と、点滴のように血管に直接投与する注射薬などがあります。

 

■胃がんの病期と治療法の例
*全ての患者さんに、そのまま当てはまるわけではありません。

・I期の胃がんの一部では、内視鏡治療により、手術と同等の治療効果があります。このため、体の負担がより少ない内視鏡治療が積極的に行われています。

・III期までのがんでは、手術を中心とした治療が標準治療であり、まず手術治療の可能性が検討されます。

・手術のときに、がんの周りのリンパ節について術中迅速病理診断を行うことで、がんの広がりを調べることがあります。リンパ節への広がりの有無によって病期が異なり、がんが広がっていなければ、より少ない範囲の切除で治療効果を得ることができます。

・IV期の胃がんに対しては、多くの場合化学療法が行われます。状態に応じて、体への負担がかからないような副作用の少ない治療を行ったり、進行したがんによる痛みやだるさなどの症状を和らげる治療やケアをより重点的に行っていきます。

このように、がんの病期に応じて、手術、薬物療法、放射線治療などのさまざまな治療法を単独で、あるいは組み合わせて行うことで、患者さんに最適な治療法が検討されていきます。

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編集・脚本 チームコンシェルジュ

<掲載内容の情報源・根拠>
・国立がん研究センター がん対策情報サービス
 「がんになったら手にとるガイド」