暮らし
水害から暮らしを守る水防活動。日頃からの備えで被害を防ぐ

POINT
台風や集中豪雨などにより、毎年のように水害に見舞われる我が国では、国や地方自治体などが行う治水事業とともに、市町村・住民による水防活動が「車の両輪」となり水害からの被害拡大を防いでいます。ここでは水防の中心を担う水防団の活動や、家庭で取り組める水害への備えなどを紹介します。

1、水防活動とは

近年の水害の状況と水防の必要性

 

日本では、毎年6月から7月頃には梅雨前線が停滞し、8月から9月頃には台風の発生により水害が頻発し、過去10年間に約97%の市町村で水害・土砂災害が発生しています(令和7年(2025年)9月現在)。さらに近年ではゲリラ豪雨や局地的大雨も多発し、これまでに想定できないような雨が降っています。水害により人命が失われるとともに、経済的損失も発生し、令和5年(2023年)における被害額は、全国で約7,100億円もの額に達しています。

 

このような水害の発生を警戒したり、土のうなどで水が溢れるのを防いだりすることを「水防」といいます。大雨や台風時には、洪水・高潮などによる命や財産への被害を防ぐため、市町村・水防団が中心となり水防活動を行い、国や都道府県も、気象情報や河川情報の提供、排水ポンプ車などの水防に関する資機材の貸与などを通じて水防活動を支援しています。

 

地域を守る水防団

 

水防団は、平時には、河川の水が堤防を越えるのを防ぐため、土のうを積むなどして堤防を守る「水防工法」の訓練、堤防の巡視、通信の点検などを行い、いざというときに備えています。

 

洪水のおそれが生じた際には、水防団は危険箇所のパトロールや立入り制限、住民の避難誘導、水防工法の実施、救助活動などに当たります。例えば、令和4年(2022年)8月3日から東北地方を中心に発生した大雨では、青森県鶴田町の岩木川において、最高水位が一時堤防を超える高さまで達しましたが、地元の水防団が事前に土のうを積み上げたことにより、氾濫を防ぐことができました

水防団員の待遇と推移は?

 

水防団員(多くの場合、消防団員が兼務)は全国に約74万人おり、団員の活躍なくして水防活動を迅速かつ的確に実施することはできません。そのため、水防団(消防団)員の確保は非常に重要です。

 

水防団(消防団)員の待遇は以下のとおりです。

 

  • 特別職の地方公務員
  • 自治体から年額報酬や出動報酬が支給

 

しかし、水防団(消防団)員の数は年々減少しており、水防技術の伝承や地域の防災力の低下が懸念されています。令和7年(2025年)の水防団(消防団)員数は735,357人で、平成15年(2003年)の940,444人から205,087人(21.8%)減少しています。また、団員全体に占める60歳以上の比率は、平成15年(2003年)の2.8%から令和7年(2025年)は10.6%へ上昇し、30歳未満の若い世代の入団が減少するとともに高齢化が進んでいます。

デジタル水防で迅速に対応

 

悪天候のもとで水防活動を迅速に実施するためには、気象情報や河川情報、避難情報などの様々な情報を水防団員同士で効率的に伝達・共有することが重要となります。多くの水防団では活動時の情報伝達手段に電話・無線を利用していますが、音声だけでは現場状況が正確に伝わりづらかったり、気象情報や避難情報など、水防活動に必要な情報の確認に時間を要したりするといった課題がありました。

 

このため、愛媛県大洲市・西予市・内子町の各水防団と国土交通省が連携し、一般財団法人河川情報センターの協力のもと、水防活動時の情報伝達・共有支援ツールである「デジタル水防」を開発し、令和7年(2025年)から実証実験を行っています。デジタル水防は、LINEアプリを活用し、ワンプッシュで当該地域の河川情報や避難情報を取得できたり、団員が撮影した写真や今いる現在地を地図上に簡単に登録できたりするシステムです。今後、他の地域でもこうした機能を活用することを検討しており、洪水などによる被害の防止・軽減に取り組んでいます。

次のページへ → コラム1:総合水防演習