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暮らしお役立ち情報 No.5

[サービスコード/P00123-00006]
2-1.どのように耐性化するのか
暮らしお役立ち情報 No.5

薬剤耐性菌が発生する原因とそのメカニズムを知らなければ、対策を打つことはできません。また、抗菌薬の不適切な使い方や環境によって、薬剤耐性菌はまたたく間に広がっていきます。薬剤耐性に関する正しい知識を得ることが、AMR対策の第一歩です。(公開日:2018年9月20日)

どのように耐性化するのか

抗菌薬は、われわれにとってそこまで大きな毒性はありませんが、細菌にとっては猛毒です。そのため、細菌はあの手この手でその毒から逃げ延びようとします。

自分の立場にたって考えてみましょう。これからわれわれの体に毒がかかる、としたら、われわれはどのようにしてその毒から助かろうとするでしょうか。例えば、分厚い服でガードして毒が入ってこないようするかもしれません。または、入ってきた毒を外に吸い出したり、解毒剤を使って毒物を分解したりするかもしれません。

細菌も同じような方法で、入ってきた毒、すなわち抗菌薬を無効にしようと試みます。以下に、細菌の薬剤耐性メカニズムの例を挙げてみます。

薬剤耐性のメカニズム

1.細菌自体を覆っている膜を変化させて、薬が入って来づらくする(外膜変化)
2.細菌に入ってきた毒を外に汲み出してしまう(排出ポンプ)
3.細菌の中で抗菌薬が作用する部分を変化させ、いざ抗菌薬が入ってきても効果が出ないようにしてしまう(DNAやRNAの変異)
4.細菌に届く前に化学反応で分解してしまう(ベータラクタマーゼ)
5.大量のネバネバ液で細菌自体を覆い、薬から身を守る(バイオフィルム)

このような耐性機構は、細菌が本来もっていたり、他の細菌から譲り受けたり、抗菌薬投与により誘導されたりします。

そもそもすべての細菌が病気を引き起こすわけではなく、また人間には非常に数多くの細菌が住み着いているのですが、お互いにバランスを保ち、病気をひき起こすことなく一つの社会を形成しています(これをマイクロバイオームといいます)。

その中で、耐性を獲得しようとする細菌は、自分が持っている本来の能力を一部変化させることにエネルギーを費やすため、細々と生きていることが多いのです。ほかに多数派の細菌が活躍している場合には、少数派の細々とした活動は目立ちにくい、つまりそのような少数派の細々とした細菌の活動が、私たちの体にすぐに病気を起こすわけではないのです。

しかし、多数派がある日突然なくなってしまったらどうでしょうか。この「多数派が突然なくなる」という状況が、「抗菌薬投与」なのです。多数派の細菌には、抗菌薬が効きます。抗菌薬投与により大多数の細菌がやられてしまうと、抗菌薬に対する耐性を得ていた少数派の細菌は、のびのびとどんどん増えることができるようになります。 このように、抗菌薬の投与により抗菌薬の効く菌が減少し、耐性菌が増殖しやすくなる状態を、専門用語で「選択圧がかかる」といいます。

生き残った薬剤耐性菌が増える

ここで大切なのは、投与される抗菌薬がどのくらいいろいろな菌に効果があるかと、どのくらいの量が投与されるかです。抗菌薬がいろいろな菌に効けば効くほど、耐性菌の活躍を抑えてくれる菌がいなくなってしまいます。幅広い菌に効く抗菌薬は一見優れているようにみえますが、ときに必要な菌たちも殺してしまうのです。

また、例えば5日間飲むべき抗菌薬をよくなったから1日でやめてしまった、本当は1日3回飲まなければいけない抗菌薬を1回でやめてしまったなど、抗菌薬が中途半端に効いた状態になると、さらなる問題が起こります。しっかり使っていればやっつけられていたはずの耐性菌が生き残り(耐性菌の中には全く薬が効かない菌だけでなく、十分な量を使えば倒せるものもいるのです)、薬に弱い菌だけがいなくなるという、「耐性菌に甘く、耐性をもたない菌に厳しい」環境が体にできあがります。

「幅広い菌に効く抗菌薬」を「不十分な量や期間」服用することがいかに薬剤耐性菌にとってよいことか、想像に難くないのではないでしょうか。

このようにして、薬剤耐性菌は発生し、ときに体を飛び越えて人から人へ、また、人から環境へと拡散していきます。

各種耐性菌の話

現在、問題になっている薬剤耐性菌の一部を紹介します。

■ メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

出典:National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID).

黄色ブドウ球菌は、もともとわれわれの鼻の中や皮膚に住んでいる細菌です。しかし、ときに膿胸(胸の中に膿の塊ができてしまう病気)や感染性心内膜炎(心臓で細菌が繁殖し、血液を通じていろいろな臓器に飛んでいってしまう病気)といった重症な感染症の原因となります。また、毒素を産生することもあり、産生する毒素によっては毒素性ショック症候群(TSS)という致死的な病気の原因にもなります。MRSAはこの黄色ブドウ球菌が薬剤耐性化したものです。メチシリン耐性という名前がついていますが、実際には多種多様の抗菌薬に耐性をもっており、感染症を起こした場合、MRSA治療に特化した抗菌薬を使用しなくてはならない場合が多いです。見た目や菌の性格は普通の黄色ブドウ球菌と同じなので、感染症の治療時に最初からMRSAが原因だと判断することは難しく、抗菌薬治療が失敗する大きな原因となります。院内感染の原因菌として1970年代から問題となっていましたが、現在は市中にも広がり、さらなる問題となっています。

■ ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)

出典:U.S. Centers for Disease Control and Prevention - Medical Illustrator.

肺炎球菌はその名の通り肺炎の原因となる菌です。こどもの中耳炎の原因菌としても有名です。しかし、肺炎球菌はときに致死的な疾患である髄膜炎(脳と脊髄を包む膜へ感染がおこる病気)の原因にもなります。以前はこどもの肺炎球菌性髄膜炎は大きな問題でしたが、効果的なワクチンの普及により激減しました。ただし、肺炎球菌はわかっているだけで90以上の種類があり、ワクチンですべての肺炎球菌の感染を予防できるわけではないので、今でも肺炎球菌による髄膜炎は発生しています。PRSPは使用頻度の高い「ベータラクタム系」といわれる抗菌薬に耐性をもつ肺炎球菌で、その発生は抗菌薬の使用と密接に関わる(抗菌薬を使えば使うほどPRSPが増える)といわれています。肺炎球菌感染症は重症なものも多く、そのような病気で治療がうまくいかないと直接的に命や後遺症に関わります。PRSPは治療失敗の大きな要因のひとつです。ワクチンとAMR対策、双方からの対策が必要な細菌といえます。

■ 基質拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)産生菌

出典:Illustrators: Alissa Eckert and Jennifer Oosthuizen.

ESBLは細菌の名前ではなく、抗菌薬を分解する酵素の名前です。この酵素を産生する菌のことをESBL産生菌と呼びます。ベータラクタマーゼとは、使用頻度の高い抗菌薬「ベータラクタム系」を分解して無効にしてしまう酵素です。ベータラクタマーゼにはたくさんの種類があり、特定のベータラクタマーゼに耐久性のある抗菌薬を人はたくさん開発してきました。それにより、基本的なベータラクタマーゼである「ペニシリナーゼ」に対しては、現在創薬で克服したと言ってもよい状況になりました。しかし、この「ペニシリナーゼ」にちょっとした遺伝子変化が加わり、ほぼすべての「ベータラクタム系」薬剤に耐性化してしまったものがESBLです。ESBL産生菌は大腸菌など腸内の細菌に多く、尿路感染症などの原因となります。治療のために、カルバペネム系という極めて広域な(いろいろな菌に効く)抗菌薬が使用されることも多く、このことがさらなるESBL産生菌を生む背景になるという悪循環があります。

■ 多剤耐性緑膿菌(MDRP)

出典:U.S. Centers for Disease Control and Prevention - Medical Illustrator.

緑膿菌は病原性の弱い菌で、健康な人には滅多に感染を起こしません。しかし、病気や高齢などで免疫力が弱くなった人々に感染し、肺炎や尿路感染症、菌血症などを引き起こします。緑膿菌は劣悪な環境に耐えうる菌であり、もともと多くの薬剤耐性を持ち合わせています。効果のある薬剤にはカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系などがありますが、これら3剤全てに耐性をもつ緑膿菌をMDRPと呼びます。緑膿菌感染症にはもともと使用できる薬剤が少ないこともあり、緑膿菌の薬剤耐性は治療上の大きな問題となります。緑膿菌は環境を通して患者から患者へ広がっていくため、耐性緑膿菌に対しては治療だけでなく、他者へ伝搬させない感染対策も重要となります。

■ カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)

出典:U.S. Centers for Disease Control and Prevention - Medical Illustrator.

ESBLの項にも登場しましたが、カルバペネム系抗菌薬は極めて幅広い細菌に効果があり、また、ある程度の薬剤耐性をもつ細菌にも効果を発揮します。そのため、耐性菌治療の最終兵器として今まで使用されてきました。ところが、この最終兵器が効かない細菌であるCREが2000年以降徐々に世界に広がっており、「悪夢の耐性菌」として恐れられています。CREによる感染症の治療は非常に困難であり、コリスチンなど、極めて特殊な抗菌薬が必要となることもあります。CREの中でも「カルバペネマーゼ」という、あらゆるベータラクタム系薬を分解してしまう酵素をもつ細菌は、「カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)」と呼ばれます。カルバペネマーゼの産生に関わる遺伝子の中には、菌から菌へ、菌種を超えて受け渡し(プラスミド結合といいます)可能なものもあり、CPEは急速に世界に拡大してきています。さらに、現在は前述のコリスチンにも耐性をもつ腸内細菌も確認されています。2017年には中国の小児科病棟でアウトブレイクを起こしており、新たな問題となっています。

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編集・脚本 チームコンシェルジュ

<掲載内容の情報源・根拠>

・AMR臨床リファレンスセンター
 かしこく治して、明日につなぐ ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~