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暮らしお役立ち情報 No.21

[サービスコード/P00150-00001]
その時が来てからわかる、遺品整理の難しさ
暮らしお役立ち情報 No.21

親が亡くなった後の家の片づけについて、考えたことはありますか。その時が来て慌てる前に、気を付けておきたいことについてまとめました。

遺品整理とは?

近年、遺品整理という言葉をよく聞くようになりました。

遺品整理とは、故人の残された家財(家具・家電・生活用品全般)を片付けることです。一般的には親が亡くなった場合に、その子供がすることが多いです。
遺品整理の難しさには以下の三つがあります。

◆親との本当の別れを迎える

一つ目は、自分が生まれてきてからずっと一緒に生きていた親の死を、受け止めなくてはならないということがあります。親が暮らしていた家や使っていた品には、思い出や親の温もりが残っています。一緒にテレビを見ていたリビング、いそいそと食事を作ってくれたキッチン、鼻歌が聞こえてきたバスルーム、それら親の生きた証を片付けるということは、親の死を真正面から受け止める覚悟が必要です。出棺の時に、最後のお別れをしますが、本当の別れは遺品整理の時にやってくるのです。そのため、心情的につい後回しにしてしまうことが多いそうです。賃貸物件に住んでいた場合には、家賃などの発生もあるため、早々に遺品整理の必要に迫られますが、持ち家だと、先延ばしにしてしまうケースが多いのです。

◆ものの量が多い

二つ目は、ものの量に圧倒されて、どのように手を付けていいかわからなくなること。高齢者世代は、「もったいない」の精神で、ものが捨てられず、いつか使うかもしれないからと、あらゆるものを溜め込んでしまいがちです。また、必要か必要でないかの判断力の低下、片付けるための体力の低下も、高齢者がものを溜めてしまう理由になるでしょう。遺品整理の後に出た廃棄物の量は、一般的な一戸建てで、通常2トントラック5台分以上になると言われています。

◆実家と自宅が離れている

三つ目には、親世帯と子世帯が離れたところに暮らしていることがあります。核家族化し、親と同居していない子世帯が増えています。内閣府の調査によると、65歳以上の者のいる世帯の中で、「単独世帯」「夫婦のみ世帯」が全体の過半数を占めていて、年々その世帯数が増えてきています。

出典:内閣府「平成30年版高齢社会白書」による

実家が離れた場所にあると、遺品整理のために実家に通わなくてはなりません。もしくは仕事を休んで何日か泊まり込み、それを何回も繰り返す、ということになるでしょう。押し入れや棚、物置や倉庫など、あらゆるスペースにはものが詰め込まれているものです。小さいものだけではなく、大型ごみの処分なども考えなくてはいけませんし、冷蔵庫やテレビなどは家電リサイクル法に従って処理しなくてはいけません。3LDKほどの小さな家でも、ごみ袋200個分以上の廃棄物が出るのが普通です。かなりの手間と時間を覚悟する必要があります。

以上のように、遺品整理というものは、精神的にも肉体的にも多くの負担を強いられる作業だと言えます。

しかし、気が進まないからと先延ばしにしてしまうと、思わぬ損失につながることもあるのです。

気付かないまま失ってしまう財産

遺品整理を始めると、思わぬ場所から故人の通帳や国債などの証券が出てくることがあります。また、誰にも知らせずに加入していた生命保険の証書なども見つかることがあります。これらには期限が設けられている場合があり、注意が必要です。

例えば郵政民営化前(平成19年9月30日まで)に預けた郵便貯金については、満期後20年2か月を過ぎると払い戻しの権利が消滅し、現金は受け取れなくなります。

平成14年までに発行された国債についても、元本と利子の支払いについて消滅時効か成立する場合があります。具体的には、元本については償還日から10年、利子については利払日から5年が経過すると、国に対して国債の元利金を請求する消滅時効が完成し、消滅時効が完成した国債については元利金の支払いが行われません。ただし、平成15年1月以降に発行されたすべての国債については、振替口座簿を管理する金融機関を通じて、確実に支払われます。

生命保険にも、保険金請求権の消滅時効期間があります。権利発生時の翌日から3年間というのが一般的です。生命保険会社によって、死亡保険金や満期保険金などは時効が過ぎていても受け取れる場合があるようですが、注意しておく方が無難です。

これらの財産は、気付かなければそのまま失ってしまうかもしれないものです。自分のために遺してくれた親の思いを受け取るためにも、遺品整理は早めに行うことが大切です。

気付かないまま増えてしまう負債

遺品整理で出てくるものは財産だけではありません。思わぬ負債が見つかるケースは決して少なくありません。

例えば、今から50年ほど前、全く資産価値のない土地を売りつける原野商法が社会問題化しました。30年ほど前には、投機的な目的でのリゾートマンション購入が人気になりました。その後、バブルが崩壊し、リゾートマンションの価格は暴落、物件とローンだけが手元に残った、という例が多くあります。これらの資産は、売ることが難しいだけでなく、固定資産税や管理費など、持っているだけで費用が発生します。そして、これらの費用の支払いを口座振替にしていると、亡くなった後も、残高がある限り引き落としは続きます。あまり知られていないことかもしれませんが、人が亡くなると、自動的に銀行口座が凍結されるわけではありません。あくまでも、遺族から銀行に対して、亡くなった旨を通知することによって、口座の凍結が設定されます。したがって、そのまま放置しておくと、引き落としは続いていくことになるのです。

他に、故人がインターネットなどで株式やFXなどの取引をしていた場合、遺品整理を先延ばしにしている間に、どんどん値下がりしてしまい、亡くなった時には資産だったものが、気付いた時には負債になってしまっていた、というケースもあります。

相続放棄の手続きは、亡くなったことを知った日から3か月以内と法律で定められています。期限を過ぎても理由によっては認められる場合もあるようですが、確実ではありません。

空家の放置は危険です

親が亡くなった後、その家に誰も住まないのであれば、家の処分についても早々に考えなくてはいけません。実は、空家のまま放置しておくことでかかる費用は、固定資産税だけでは済まないこともあるのです。

例えば、劣化や事故、自然災害などで家が損壊し、その一部が人や他人の物を傷つけるなど被害を及ぼした場合、損害賠償を請求される場合があります。

また、誰も住んでいない空家が火元となる火事も、少なくないのが現実です。その原因の多くは放火ですが、庭木や山積したゴミから出火したり、ネズミが配線をかじって起こす火事もあると言います。そのような火事で他人に被害が及んでしまった場合、空家の管理状況などによっては、持ち主に賠償責任が発生する可能性があります。

遺品整理の前にしておきたいこと

それでは実際に遺品整理を行う際に、まずはどんなことから始めれば良いのでしょうか。

◆相続人全員の合意を得ておく

まずは、兄弟姉妹や子など、故人の財産を相続する権利を持った人たち全員に、遺品整理をすることに同意してもらうことが大切です。どんなに兄弟仲が良かったとしても、逆に、生前「親の面倒は任せた」と一切連絡のなかった兄弟でも、相続となれば話が変わってくるものです。同意を得ないまま遺品整理をして、後から「同意してないのに勝手に整理するなんて、きっと金目のものを着服したに違いない」とあらぬ疑いをかけられることもあり得るのです。トラブルを避けるためにも、相続人全員の合意を委任状などの形で受け取っておくのが安心です。

◆下見をする

遺品整理をする前に、必ず下見をするようにしましょう。その際、貴重品をざっと探しておくことも大事です。貴重品は現金や通帳だけではありません。印鑑やクレジットカード、パスポートや年金手帳などの公的書類、生命保険の証書や有価証券など、大事なものは出来るだけ見つけ出して確保しておくようにしましょう。

それから、家の中の状態を確認して、片付けにどれくらいの時間と労力が必要か判断します。一般ゴミや大型ゴミ、家電ゴミなどの種類や量をざっくりと算定しておくと、後から処分方法を考えるときに役立ちます。

◆計画を立てる

家の中の状態を確認したら、どのくらいの日数で、手伝ってくれる人員はどれくらいいるのかを考えながら、大まかな作業計画を立てます。遺品整理は想像以上の大仕事なので、役割分担や作業のゴールを決めておかないと、どんどん長期化していきます。

それから費用についても、わかるものだけでも計算しておくと良いでしょう。お金がかかるのはゴミの処分だけではありません。例えば兄弟が皆遠方に住んでいたら、集まるだけでもかなりの交通費がかかってしまいます。そしてこれらの費用をどこから捻出するのか、誰が負担するのかも考えなくてはいけません。

計画が出来たら実行するだけですが…

ざっくりと計画が出来たら、後は粛々と実行するのみです。片付けの基本は、捨てるものと残すもの、後から判断するものの3つに分けることです。思い出に浸りすぎても進まなくなってしまいますので、ある程度割り切って行うことが大切です。

しかし、計画段階から、または実際に作業を始めてから、自分たちだけで最後までやりきるのは難しいという結論にたどり着いてしまうケースもあるでしょう。その場合にはプロに頼むという方法もあります。

遺品整理のプロ

近年、親世代との別居や、離婚や未婚による一人暮らしの増加などによって、遺品整理が必要になる機会も増えています。できれば身内だけで行うのが良いとは思いますが、家が遠方だったり、ものが多かったり、時間的な余裕がなかったりする場合に、遺品整理を代行してくれる業者があります。業者によっては、家の片づけだけではなく、価値のあるものを買い取ってくれたり、人形や仏壇などの処分しにくいものを供養してくれたり、不動産の処分などの相談にも応じてくれるところがあります。

しかし、不当に高額な料金を要求したり、遺品を着服したり、処分するゴミを不法投棄するような業者も多かったため、遺品整理業の社会的役割と事業者数の増大に伴うモラルの低下を是正することを理念に、2011年遺品整理士認定協会が設立されました。現在、遺品整理士認定協会が認定した遺品整理士は、全国で20,000名を超えています。身内だけで行うのが難しい場合は、ひとつの手段として遺品整理士に依頼するということも、珍しいことではなくなっています。

生前整理のススメ

このように遺品整理は、遺された家族にとっては、精神的にも肉体的にも負担の大きい仕事です。愛する家族の負担を少しでも軽くするために、ぜひ生前整理ということも考えてみてはいかがでしょうか。

生前整理の際に気を付けておきたいポイントは3つです。

◆今、生活していくのに必要でないものの処分

いつか使うかもしれないと溜め込んでいるものは、思い切って処分してしまいましょう。本当に必要になった時には、また手に入れればよいのです。いつか着るかもしれないと取っておいた洋服は、着ようと思った時にはサイズやデザインが合わなかったりするものです。

◆思い出として取っておきたいものの整理

アルバムやビデオ、手紙やプレゼントなど、その時の思い出がいっぱい詰まったものは、なかなか処分できないかもしれません。でもこう考えてみたらどうでしょう。例えば孫が出来た時、この思い出の品に共感してくれるかしら、と。もしお子さんがいなかったら、兄弟姉妹はこの品を自分が亡くなった後も大切にしていてくれるのかしら、と。たくさんの思い出の品を溜め込んだまましまっておくより、ダンボール1箱程度の量にまとめておいて、頻繁に出して触れられる方が幸せだと思いませんか。ものには思い出が宿りますが、ものを処分しても決して思い出はなくなりません。極論かもしれませんが、ものを持ったままあの世へ行くことはできないのです。

◆財産について

遺された人たちが困らないよう、資産や負債の状況を一覧にしておくと良いでしょう。そして今一度、通帳や権利証などの重要書類がきちんとあるのか、確認もしてみてください。確かにあの棚に入れておいたのに、必要な時に探してみたらどこにも見当たらない、という経験をしたことはありませんか。

生前整理を自分が亡くなった後のためと考えると、寂しい気持ちになってしまうかもしれません。これからの人生を新たな気持ちでスタートするために、身の回りの不要なものを片付けていく、ということから始めてみてはいかがでしょうか。

こちらもご覧ください


編集・脚本 チームコンシェルジュ

〈参考文献〉

内藤 久『親の財産を見つけて実家をたたむ方法』2018年 ビジネス社
木村 榮治『遺品整理士という仕事』2015年 平凡社
木村 榮治『遺品整理士が教える「遺す技術」』2016年 メイツ出版
木村 榮治『プロに学ぶ遺品整理の全て』2015年 WAVE出版
赤澤 健一『遺品は語る』2016年 講談社
吉田 太一『遺品整理士は見た!!』2011年 幻冬舎